ときめく想い(古代人とアトランティス人 第三回)
メトロカは、わずか二十歳の青年ですが、非常に優秀なアトランティスの科学者です。
科学庁のトップが、強権的に社会を支配していく事を懸念しています。
彼は友人と共に、密かにこの状況を覆すための研究を続けていました。
そんな中で、彼らは古代の女性にとんでもない災難を及ぼしてしまいます。
メトロカは、過去の時間から連れてきてしまったフセセルを、研究所から助け出すために周到な準備をしました。
彼は自分のクローンを作り、自らの死を演出します。
フセセルには周波数遮断シートを被せて、他の科学者に死んだと思わせます。
そして、密かにフセセルを連れて古代へとワープしました。
計画は成功したかと思われました。
しかし、ワープ後8日目に、AIは、メトロカが死んでいない痕跡を見つけてしまいます。
フセセルは、やっと古代に帰ったにもかかわらず、自然界から恐ろしい未来を知らされます。衰弱していたフセセルは、心痛のあまり死んでしまいます。
古代に残されたメトロカは悲しみ、途方に暮れます。
自然界は、古代の人たちに、メトロカを、慈しむようにと伝えます。
自然界は、これから人々に起こる災難を止めなければと考えていました。
メトロカは、ワープの帰路のルートをまだ消していません。
ワープは、どこへでも簡単に行けるわけではなく、フセセルがいた古代へのワープは、難しいルートで、移行中に時間の網目の迷路に入り込む可能性が高く、迷路に入ると出られません。
メトロカの場合は、この古代に分身がいて、その繋がりを使い安全にワープしました。
メトロカは、古代でフセセルと暮らすつもりでしたが、ワープの装置は古代にはなく、帰路のルートを消せば、二度と未来のアトランティスには帰れません。
もしもの事を考えて、アトランティスへの帰路のルートをまだ消せずにいたのです。
自然界は、メトロカの帰路のルートを使って、アトランティスから追手が来ると知らせたいのですが伝わりません。急いで帰路のルートを消さなければなりません。
自然界は、メトロカがここでの暮らしに安心して、帰路のルートが必要でないと思わせるしかないと考えました。
しかし、人々は彼を慈しむより、フセセルに何かしたのかと、問い詰めるのです。
自然界の思惑が伝わらないうちに、アトランティスでは、科学者達はメトロカがワープしたことを知ってしまいます。メトロカの帰路のルートは固定されました。
科学者達は、やっとこの段階で、メトロカがフセセルを過去から連れてきた事を知ります。そして再びワープを行ない、連れ帰ったのです。謎が解けていきました。
科学者達は、フセセルがいる古代には、周波数の高い種族がいるのだろうと予想しました。
宝の山を見つけた気分です。
オラルとフセセルの脳と意識のコピーが研究所にあり、それを再度調べ上げます。
メトロカの友人ルクーシャは、危険を察して未来のエジプトへ逃げます。
準備を整えた科学者達42人は、メトロカの帰路ルートを使って、古代へやってきました。目的は古代人の体験情報を奪う事です。彼らにとって良質な体験情報は宇宙支配の要です。
フセセルの脳の知覚を調べ、それに沿って全員が変身しています。想念の色も、美しく見せています。
科学者達は、驚くほど美しい姿で現れました。
古代の人はそんな科学者達に出会うと、なんて素晴らしい人達なのだろうと、ざわめき浮き立つのです。
人々は、あまりに美しい42人の科学者に惹かれていきます。
科学者達は、警戒するメトロカには、自分達は周波数の高い古代人に愛を学びにきたのだと信じ込ませます。そして、古代人とのテレパシーをわずかに使う彼に通訳を願いました。
古代では、単調で平和な日々が延々と続いていました。人々は新鮮さに敏感です。
ここでは、恋が叶わないとか、相手の気持ちを待つとか、大勢が一人の人を恋するという体験は起きたことがありません。
人々にとって科学者に惹かれることで体験する思いの全ては新鮮でした。
23000人以上の人々は、予期せぬ出会いにどんどん夢中になっていきます。
自然界は、騙されている事を伝えようとしますが、人々には危険を察知して身を守るという概念がなくて、あまりに無防備です。人を疑うことも、恋の衝動を抑えることも知りません。
科学者達にとっては信じ難いほど、人々は簡単に恋に落ち騙されていきます。
科学者達は、本心を隠しています。どう振る舞えば人々が自分達にのめり込むか計算しています。この心の裏腹さは隠しきれませんが、その光と影が交差する複雑な表情にさえも、人々は魅了されてしまうのです。
やがて、42人の科学者はテレパシーで人々と語れるようになりました。
人々の心を完全に手に入れたとみて、次の段階へ進みます。
存在する空間の違いから、人々には科学者が見えても、科学者には古代の人達を見ることはできません。
科学者達は、これほど愛しているのに見ることも触れることもできない、そんな状態にはもう耐えられない。とても悲しいと訴え始めました。
もっと愛を知りたいのに、限界がある事が辛いと嘆いてみせるのです。
そして、同じ空間に暮らしてみたいと伝えます。
古代人同士では、このような苦しみは起きません。嘆き悲しむという感情さえも見た事がないのです。
人々は戸惑いながらも、その感情の陰影の美しさを初めて知るのです。
人々が長く経験してきた恋は、心が溶けるような安らぎでした。しかし、科学者と出会い、知った恋は、心が痛み燃えるようです。人々は、このような想いに抵抗力がなく、切なく辛い恋に飲み込まれていきます。
同じ空間にいたい願いは、人々の願いになります。
直接触れ合いたい。人々は、そんな夢に一途にときめいて、とうとう自分の空間を出ようとします。それは死を意味します。
自然界の言葉に、耳を傾ける者はいません。
メトロカは、必死で人々を思いとどまらせようとします。
自然界はメトロカにフセセルの意識を入れます。彼女は、科学者の本当の目的はみんなを自ら死なせることだと話します。愛してなどいないと。
しかし、メトロカの容姿も想念の色も、他の科学者に劣ると見えています。死んで既にいないはずのフセセルが話しているとも思えません。
人々は、取り乱しているメトロカを、ただ優しく労わるのです。
自然界は、もう止めることは不可能だと思います。人々の心は、熱病にかかったようです。
そして、メトロカにささやきます。今度は君が科学者達のアトランティスへの帰路のルートを使い、密かにワープして帰りなさいと。
フセセルは、自分も共に行くからと促します。
フセセルは、死後の世界へは帰らずに、このままメトロカと共にいようと決めていました。
フセセルは死んでから、やっとメトロカの愛情を信じることができました。
彼女は死後に、過去の時間に舞い戻り、もう一度アトランティスでの出来事をたどりました。
そして、メトロカが、彼女が奪われた体験情報を命懸けで取り戻してくれたことを知ります。そして彼女を古代に連れ帰ることが、どれほど難しいことだったかを知ります。
フセセルは生きている時には、メトロカとの出会いを何度も後悔しました。けれど、メトロカは常にフセセルを守ろうとしていたのです。彼も多くの苦難をフセセルのために乗り越えていたのです。
フセセルは、彼の愛の強さを死んでから初めて知りました。
古代での暮らしの中でも、彼女はいつも誰かと愛し合っていました。しかし、そんな自分の愛は、本物の愛ではなかったと感じます。メトロカに出会い、自分はやっと本当の愛を知ったのだと思いました。
フセセルにとって、生きるとは愛することです。それはあまりに自然なことで、それ以上の掟も哲学も必要とはしません。彼女も他の古代の人同様に、一途で汚れのない心を持っています。そんな彼女がメトロカの強い想いを知った時、彼女の意識に激しい衝撃が起きました。
自分には乗り越える力がまるで無くて、嘆き悲しむだけだった。けれどメトロカは彼女を助けようと恐ろしい困難を乗り越えていた。フセセルの中で起きた衝撃は、これまでの愛とはまるで別の、強い愛おしさでした。
メトロカは、42人の科学者がワープした帰路のルートを使い、密かにアトランティスへ帰りました。そして、誰にも見つからないように、友人がいる未来のエジプトへワープします。フセセルは共にいます。
古代の人々を止める者は誰もいなくなりました。
人々は科学者がいる空間へ向かいます。そこには体験情報を吸い取る装置が用意されています。五次元の人々にとって、死は空間移動です。死と同時に肉体は消えます。
人々は、科学者のいる空間への転生を夢見て、ときめく想いを胸に、集団催眠にかかったように死んでいきます。
そして、死んでから科学者達の意識体の姿を見ました。その醜くおぞましい姿と汚れた想念の色を見て、人々は混乱します。人々は、体験情報を奪われたまま、死後の世界に帰って行きました。
3年と2ヶ月の間に、23000人以上の古代人が死んでしまいました。
過去の体験情報を失うとは、その情報が作り上げる未来の幸運を失うことです。
自然界は、次々と死んでいく人々を悲痛な思いで見送りました。
しかし、そんな人々の顔は、誰もが新しい未来への期待に輝いています。
情熱を知った、その強い眼差し。求めることを知った人々が、自ら進もうとする力を、自然界は見ていました。
その情熱の行方を、人々が再び生まれる未来で、必ず見届けると自然界は思うのです。
そして、帰路のルートを失って、古代に残された科学者達は、アトランティスへは帰ることができずに、そのまま古代で死を迎えます。
メトロカと友人のルクーシャは、エジプトで出会いました。
二人は無事に暮らしますが、体が空間に合いません。
フセセルは、かつて古代でそうしたように二人を守ります。しかし、二人は長くは生きられませんでした。
メトロカとフセセルは、死後の世界に二人で向かいました。
そして、二人は類稀な強い絆で結ばれているために、転生の度に巡り合いパートナーになっていきます。
現在も二人はスウェーデンに生まれて出会い、多くの友人に恵まれ幸せに暮らしています。
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2023-02-13 同じ内容ですが、もう少し詳しく書いたものをこちらにも載せています。よろしければご覧ください。
https://note.com/gyakutennochisei/n/n835deed9898d
2023-02-21 YouTubeに今回のオーディオ版を掲載しました。よろしければお聴きください。
https://www.youtube.com/watch?v=e3isks0ILiI
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(2023-02-10)